場所 : 北海道空知郡南富良野町
時期 : 2022/10/xxほか
1日自由にできる時間があり、日帰りで帯広を訪れた。そのついでに、1999年公開の映画「鉄道員」のロケ地でも知られる南富良野町の幾寅(いくとら)駅に立ち寄った。
■地図情報
同駅は滝川市から釧路市までを結ぶ国道38号線からほんの少しだけ外れたところにある。駅前は比較的大きなロータリーがあり、脇には南富良野町情報プラザなる施設がある。ここに車を駐車することもできるはず。
駅舎には「幾寅駅」ではなく「幌舞駅」の看板がかかっているが、これは作品上の駅名。ちなみに駅舎の内外装は映画撮影のタイミングで少し手が加えられているのだとか。
同駅を含む根室本線の新得から東鹿越までの区間は2016年に発生した大雨災害によって列車の運行が出来なくなってしまい、現在は列車がやってくることはなく、日に4.5往復の代行バスが運行されている。
なお、不通になる以前の2015年までは日に60人程度の乗車があったそうで、この辺りの駅にしては駅舎が比較的大規模。駅舎内は手入れがされていて、列車の運行されている駅よりも綺麗かもしれない。
駅の一角、恐らくかつて事務室だった部分は前述の映画「鉄道員」ロケーション記念展示コーナーとして開放されている。ダイジェスト映像を映しているのはブラウン管のテレビで、今となってはこれもこれで時代を感じる。
展示室の一角にある事務机には2014年にこの世を去った、映画の主演を務めた高倉健さんの写真が掲げられていた。大スターの来訪は街としても大きなイベントだったであろう様子が各種展示からも伺える。エンドレスで流れている映画のBGMは駅の情景と合っていて何とも言えない雰囲気。
映画では同駅を中心として南富良野町内の各地で撮影が実施されたらしく、ロケ地ガイドが掲出されていた。単に景色を眺めるだけでも十分綺麗な土地だが、映画を見てから同地を訪れるとより一層楽しめるように思う。
この幾寅駅が映画のロケ地に決まった理由が駅舎とホームの間にある階段。駅舎からホームまでは10数段の階段があり、これを上ってホームに辿り着くのだが、これが映画とマッチしたのだそう。
駅舎の向こうに明後日の方向を向いた鉄道車両が見えているが、これは駅前に映画のロケセットが一部残されていて、映画で使用された車両が廃車になった際にカットモデルとして移設されたもの。
晩秋に入りつつある秋の北海道のひんやりした空気を感じながらホームに上がってみれば、線路は完全に錆び切っているものの、線路が草むしているというということもなく待っていれば列車がやってきそうな様子。かつてはもう1本線路があったようだが、現在はホームに面している線路のみが生きている。
それほど運行本数の多い路線ではないとはいえ、撮影当時は定期列車も運行していたわけだが、当時はその合間を縫って車止めなどといった終端駅としての設備を設置して撮影していたのだとか。それゆえ撮影可能な時間は日に2時間程度しかなかったらしい。
映画で使われたのはこちらの向き。映画とは違い、前日まで列車の走っていた線路が突然不通になった訳で、ラストランもなく廃止になるとは誰が予想しただろうか。近年北海道ではこの手の路線廃止がちらほらあるから、留萌本線のように徐々に短縮されつつも最終日まで役割を全うできている路線は幸せなのかもしれない。
個人的に同駅は近くを通りかかった際に何度か訪れているが、この鉄道車両のカットモデルが置かれたのは2010年代初頭*1だったはず。前回2016年に訪れた際にはまだ朱色の塗装に光沢があり、お色直しして間もないといった様子だった。
そこから約6年の時を経て2022年に同地を訪れると、車両は色褪せ、ところどころひび割れている上、あちこちに蜘蛛の巣が張っていた。鉄道車両の静態保存はなかなか難しいと聞いたことがあるが、なかなか痛々しい。気づけば映画の公開から四半世紀近くが経過している訳で、こうなってしまうのも致し方ないことなのだろうか。
映画の世界のみならず、現実世界でも鉄道路線が無くなってしまうのは惜しいが、幾寅というのは富良野からも帯広からもそれほど離れておらず、今なお観光の利便性は比較的高い地域。近年は駅近くの「道の駅 南ふらの」付近に「フェアフィールド•バイ•マリオット 北海道南富良野」も開業した訳で、今後の発展に期待したいところ。
同駅は富良野•美瑛から帯広、もしくはその逆方向に車移動をする場合には経路から殆ど外れずに立ち寄ることができるから、ついでに訪れてみてはいかがだろうか。
というお話。
*1:映画用に「キハ12」として改造されたのちしばらく定期列車に充当され、2005年に廃車になったのだとか。