日本の迷い方

旅の知恵袋になりたい、という話

【乗車記】南阿蘇鉄道•7列車(立野/高森)


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便名 : 南阿蘇鉄道•7列車(普通列車)
日付 : 2024/02/xx
区間 : 立野(09:44)→高森(10:15)
所要時間 : 00:31
乗車クラス : 普通車自由席
運賃 : 490円(現金決済)
運行 : 南阿蘇鉄道

福岡から所用で鹿児島を訪れるついでに少し足を伸ばして阿蘇近辺に寄り道し、2023年の夏に7年ぶりに全線再開した南阿蘇鉄道に乗ってみることに。

(事業者公式サイトはこちら)

www.mt-torokko.com

この日は福岡県と大分県の県境に近いところにある「フェアフィールド•バイ•マリオット福岡うきは」に宿泊していて、朝07:30頃にホテルを出発、約2時間走って立野駅までやってきた。

立野駅近辺にはいくつか無料駐車場があり、南阿蘇鉄道を利用する場合はこの駐車場を利用することができる。駅前の駐車場はすでに埋まっていたが、徒歩3分ほどのところにある駐車場は朝09:30の時点でまだ空きがあり、今回はここを借りることに。なお、路線の反対側の終点、高森駅近辺にも駐車場が開設されているとか。

南阿蘇鉄道立野駅近くの駐車場

立野駅近く/ 駐車場は早朝ならば駐車可能

駐車場から坂を下っていくと左手に割と新しめの建物が見えてくるが、これが立野駅。線路は崖の下にあるため、ホームへは階段を降りてアクセスするかたち。ちなみに駅前に停まっている車は予約制のジャンボタクシーで、「震災ミュージアム」と「新阿蘇大橋展望所」へアクセスすることができる。

(ジャンボタクシーについてはこちら)

www.kumamotto.net

南阿蘇鉄道立野駅 駅舎全景

駅舎全景/ ホームは1つ下のフロア

同駅は熊本と大分を結ぶJRの豊肥本線と、今回乗車する、立野と高森を結ぶ南阿蘇鉄道の2路線の共用駅。このうちJRの方は急勾配を登っていくため「スイッチバック」方式で運転されていて、熊本、大分どちらの方向へ向かう列車も折り返して出発していく。

他方の南阿蘇鉄道は駅舎に近い、JRとは少し離れたところに独立したホームがあり、通常の列車についてはこのホームを発着。ただし、朝を中心に一部の列車はJRの肥後大津駅まで直通するため、直通列車についてはJRのホームに入る。

南阿蘇鉄道立野駅 乗り場案内

立野駅 乗り場案内/ 今回乗車する列車はJR側のホーム出発

JRのホームには郵便ポスト型の乗車券、運賃回収箱が設置されている。ワンマン列車であれば降車の際に車内の運賃箱に運賃を支払うことになると思うのだが、どの場面で利用するんだろうか。少なくとも釣り銭が出せるような構造ではなさそうな。

南阿蘇鉄道立野駅 JRの料金収受箱

立野駅/ ポスト型の料金収受箱

この辺りの鉄道は2016年の熊本地震の被害を大きく受け、豊肥本線が2020年、南阿蘇鉄道が2023年にようやく復旧したという状況。熊本県は全体として鉄道復旧に積極的だから今日の状況になっているが、ややもすると廃止されていてもおかしくなかったように思われる。

南阿蘇鉄道立野駅 JRホーム上の看板

立野駅/ 全線開通してようやく半年経過した

今回乗車する列車はあそ熊本空港の最寄駅でもある肥後大津(おおづ)駅始発で、JR豊肥本線から直通してくる列車。車両は今回の再開通を機に新車導入されたもので、外観には「2023年再建」の文言が入っている。

この日ホーム上には結構な人数の観光客が列車を待っていて、列車がやってくると立ち所に車内はいっぱいに。全くガラガラとは思っていなかったが、ここまで混雑しているというのも意外だった。

南阿蘇鉄道 普通列車の新型車両

普通列車/ 「復旧」の日付を記載するのは珍しい

座席を確保し損ねてしまったので、出入口あたりで外を眺めることに。立野駅を出発するとしばらくの間はつい最近開業したばかりの区間で、路盤がかなり綺麗。

南阿蘇鉄道立野駅 JR線との接続部分

立野駅/ JRと南阿蘇鉄道は線路がつながっている

次の長陽駅までの間、進行方向右手には大きな立野ダムが見えてくる。割と新そうに見えるが、それもそのはず、2024年1月に試験湛水を開始したばかりなんだとか。

南阿蘇鉄道沿線の立野ダム

立野ダム/ まだ本格稼働前

立野ダムを超えたところにあるのが「白川第一橋梁」。先の熊本地震で初代の橋が損傷したため、新しい橋に架け替えられている。尤も、橋は渡っているとどんな形をしているかよく分からず、遠目から眺めたほうが楽しいかもしれない。

南阿蘇鉄道 第一白川橋梁

第一白川橋梁/ 架け替えられて現在のは2代目

川からレール面までの高さは約60mだそうで、これは山の向こう側、宮崎県の高千穂にあった「高千穂橋梁(同105m)」に次いで日本で2番目、現役の鉄道橋としては日本でいちばんの高さ。橋の架け替えに際しては、耐震設計とダム湛水の影響を考慮して設計がされたとか。列車は鉄橋を徐行しながら通過するので下を眺めてみると、なるほど結構な高さ。

南阿蘇鉄道 第一白川橋梁

第一白川橋梁/ 地上までは約65mの高さ

同路線は途中9駅があり、概ね中間あたりの中松駅でのみ列車の行き違いが可能な構造。自動放送はないので各駅では運転士さんが放送を入れるのだが、どうやらこの日は台湾からの観光客がやってきていたようで、運転士さんは日本語の放送に加えて次の駅の案内や駅周辺の観光地など、簡単な中国語の案内を加えていた。近頃中国語圏からの観光客が多いとはいえ、なかなか簡単にできることではないはず。

南阿蘇鉄道 運賃表と路線図

南阿蘇鉄道/ 交通系ICカード等は利用不能

先の「白川第一橋梁」を渡る際、進行方向左手奥の方には、ここ数年のうちに架橋された「新阿蘇大橋」や「長陽大橋」が見えてくる。これらの橋が崩落した際には立野から南阿蘇村役場までといった村内の移動であっても大幅な迂回が必要で、約40分を要していたというが、復旧したことによって10分まで短縮されたのだそう。

南阿蘇鉄道から長陽大橋

阿蘇大橋•長陽大橋/ これが開通してようやく所要時間が元に戻った

列車は立野から10分ほどで阿蘇下田城駅に到着。同駅はホームに面してなんとも胡散臭い(?)からくり人形が展示されていて、列車の発着に合わせて起動する仕組み。

かつてはここに公衆浴場が開設されていたそうだが、これも震災の影響で閉鎖になり*1、その跡地に置かれているのがこの「からくり人形」らしい。「歓迎システム、作動」のアナウンスとともに動き出すが、列車は動作が終わるのを待たずにさっさとドアを閉じて出発するのがシュール。

南阿蘇鉄道 阿蘇下田城駅のからくり人形

阿蘇下田城駅/ 列車が到着すると動き始める

列車はカルデラの中をのんびり走っていく。この日は天気が良かったこともあり、この辺りの特徴的な地形がなかなか際立っている。

南阿蘇鉄道の車窓

車窓/ 山を越えると熊本空港方面

路線は全体として比較的線形がよく、途中区間には殆ど急カーブは存在しない。ただ、保線状況はJR九州の在来線よりはちょっとマシ、くらいのレベルなので、あまり速度を出すと立っているのは厳しそう。

南阿蘇鉄道の車窓

車窓/ 比較的線路は直線が続く

その後到着するのが以前は日本国内で最も長い駅名として知られていた、「南阿蘇水の生まれる里白水高原」駅。現在でも文字数では国内では国内最長なのだが、音の数では上がいて、「等持院立命館衣笠キャンパス前」駅が最長なんだとか。「寿限無」じゃないんだから長さを競われても困ってしまうが、たまにそういった駅がある分には面白い。

南阿蘇水の生まれる里白水高原駅 駅名看板

南阿蘇水の生まれる里白水高原駅/ 圧倒的な文字の多さ

駅構内に趣向を凝らしているのは先ほどの「阿蘇下田城」駅だけではなく、他の駅も何かしらの個性を有している。先述した唯一の交換可能駅、中松駅は駅舎の中にロボットがディスプレイされていた。幼い頃からこの手の作品はさっぱりなのだが、有名なキャラクターなのだろうか。

南阿蘇鉄道 中松駅の駅構内

中松駅/ 結構な大きさのロボット

中松駅を出発する際、分岐器はこちらの列車の進行方向ではない方向に開通していたが、列車はそのまま通過。これは「スプリングポイント」という分岐器だそうで、車輪で線路を押し退けて通過する仕組みになっているとか。

南阿蘇鉄道 中松駅の駅構内

中松駅/ 線路は進路と違う方向に向いている

中松駅を出発してしばらくすると、進行方向左手に駅のような構造物が見えてくるが、これは当初「小池水源」駅として開業する予定だったものの、何らかの理由で頓挫した残骸のよう。駅舎となるはずだった建物と駅前ロータリーがそのまま残されているが、通常こういった整備作業は駅の開設許可が降りてからする訳ではないんだろうか。

南阿蘇鉄道 未成駅

小池水源付近/ 立派なロータリーと駅舎が設置されている

ロータリーより線路は一段高いところに位置しているが、スロープを介して線路際までアクセスすることができるようになっているから、駅を開設するためにはホームを設置するだけという状況に見える。ここまでして最終的に開設に至らなかった理由は気になるところ。

南阿蘇鉄道 未成駅

小池水源付近/ ホームだけ設置されていない

そんな未成駅を通過すると終点の高森駅はもう間もなく。個人的には熊本県内の観光地でいちばんお気に入りの「白川水源」のある南阿蘇白川水源駅を出ると、次が終点ひとつ前の見晴台駅。ここはキリン「午後の紅茶」のCMのロケ地にもなった駅。

特に駅が高台の上にあるという訳ではないのだが、周囲に視界を遮るような背の高い建物なんかはないから、確かに眺望は優れている。

南阿蘇鉄道 見晴台駅の眺望

見晴台駅/ 景色がよく、気分の良い駅

前述の通り、CMのロケ地になったということで、駅には全ての商品が「午後の紅茶」で統一されている自動販売機が設置されている。青森なんかでは全て「リンゴジュース」で揃っている自動販売機なんかを見たことがあるが、これはこれで壮観。

南阿蘇鉄道 見晴台駅の自動販売機

見晴台駅/ 「午後の紅茶」オンリーの自動販売

最終停車駅の見晴台駅を出発してからも殆ど一直線で、町が近づくと左にカーブして終点の高森駅に到着。線路はそれほどヨレていないものの、速度が上がるとちょっと揺れが激しくなる。

余談だが、過去にはこの高森駅から山の向こう、高千穂駅までの約23kmの区間をトンネルを介して接続し、熊本から延岡の路線として結ぼうという計画があったのだが、トンネル掘削工事では異常出水や水枯れが発生したことで工事が中断され、その間に国鉄の経営状況が悪化したことから工事が凍結、未成線となって今に至っているという状況。なお、当時掘削していたトンネルは「高森湧水トンネル公園」として現在では観光施設化されている。

(高森湧水トンネル公園はこちら)

www.town.takamori.kumamoto.jp

南阿蘇鉄道 見晴台駅から高森駅

見晴台駅から高森駅/ 最終区間も直線

ともあれ列車は終点の高森駅に到着。同線は交通系ICカードなんてものは利用できないので、現金で490円を支払って降車した。運転士さんは冒頭の挨拶から最後のお礼まで一通り中国語で案内を完遂していて、サービス精神の旺盛さに感心してしまった。

そういえば、到着した高森駅の構内にはちょうど訪問した少し前に引退したMT-3000型の姿が見られた。当日からそれほど日が経たないうちに解体されてしまったようなので、この日姿を見られたことは運が良かったのかもしれない。

南阿蘇鉄道 高森駅構内の留置車両

高森駅構内/ 数日後に解体されたMT-3000型車両

ちなみにそのMT-3000型に代わって導入されたのが今回乗車したMT-4000型。このSNS全盛の時代にも関わらず、同路線で新車で導入された際、誰の目にも触れずに熊本まで輸送されていたことが話題になった車両。

つい最近、2024年4月中旬には車輪に草(つた)が絡まったとかで駅に停車できず、300mちょっとオーバーランしたとニュースになっていたが、どんな頑丈な草が引っかかるとそんなことになってしまうのだろうか。

南阿蘇鉄道 普通列車の新型車両

高森駅/ 試運転まで一切人目につかなかった新型車両

駅ホーム上には2020年に「ONE PIECE」のキャラクター、「フランキー」像が設置されていて、列車の到着とともに記念撮影をする乗客で混み合っていた。ちなみに熊本県内には他にもいくつかの像が設置されているので、これを巡ってみるというのも良いかもしれない。

(県内の銅像についてはこちら)

op-kumamoto.com

なお、南阿蘇鉄道では週末など土日祝日を中心に特別装飾の「サニー号」なる車両を運行している。今回復路ではその列車に乗車したので、これは別途記事にできればと思っている。

南阿蘇鉄道 高森駅のワンピース像

高森駅/ ワンピース像は県内10ヶ所に点在

ともあれ高森駅に到着し、南阿蘇鉄道は全線完乗。全国の大所の路線は制覇できているのだが、ここまで残った路線は本数が少ないだとか、アクセスが難しいだとか、何かしらの残る理由がある訳で、今後はなかなか苦労しそうな。

というお話。

*1:その関係で2023年7月の再開通時に駅名を「阿蘇下田城ふれあい温泉駅」から「阿蘇下田城駅」に変更している。